デジタル作画で効率化の次に考えるべきこと
サトリデザインの佐藤皇太郎です。数十秒から数分といった短編のアニメーションを制作したり、映像とCGに関する教科書を執筆したり、関東学院大学と東京造形大学にて非常勤講師として学生の指導をさせて頂いております。
日本のアニメーション業界は現在、デジタル作画への移行の真っ只中にあります。各社で、また個人レベルで、試行錯誤をしながら、新しい制作スタイルやシステムを導入するための努力を続けられていることと存じます。
まずは、安定した品質で効率良く制作できるように、つまり従来の制作スタイルやシステムを置き換えることを目標にするのが現実的だと思いますが、そこから派生的に、幾つか新しい可能性の芽も出てきているようです。たとえば、動画スタッフが仕上げ(彩色)まで行うことによって待遇面で改善される、といった事例も興味深いものです。これも効率化の一側面ですね。もちろん、制作に関わる全てをデジタルデータ化することによって、ネットやITを活用した効率化が進むのは喜ばしいことですし、この流れはもう止められないように思われます。
でも、制作環境にデジタルを導入することによって得られるものは、いわゆる「効率化」だけではありません。
昨年(2017年)の夏、国立新美術館にて「Into Animation 7」というアニメーションのイベントが開催されました。「7をテーマにした15秒のアニメーション作品」を募集していたので、サトリデザインからも、私が1人で制作(監督・脚本・作画・音楽)し、参加しました。その作品が以下の「7つに分けるには?」です。
円形のチーズを7人で分けるのは難しいですが、友達を1人連れてきて、8人で分けると簡単になりますね。1人あたりの分け前は少なくなりますが、幸せを分かち合うことができるなら、それは素敵なことでは?という短い物語です。
この作品は、Flash(現 Animate)を使用して制作しました。デジタル作画用のソフトウェアとしては、TV Paint、Toon Boom、Clip Studio などと比べると、いまひとつ有名ではないかもしれません。でも、描画作業を直感的に行えることや、「シンボル」という仕組みを活用した合理的なシーンの組み立てなど、アニメーション制作ツールとしては非常に使いやすいので、個人的には高く評価しております。
上記の作品においては、あえて手描きの味を残した描線に、テクスチャを別レイヤーで重ねて、「動く絵本」のようなビジュアルを目指しました。ネズミの毛皮のテクスチャは、実はうちの近所にいるネコの毛皮を撮影・加工して、使わせてもらったんですよ(笑)。あまり知られていないのですが、10年以上前から、Flash は「塗り」の作業において、この様なテクスチャの貼り込みや調整も簡単に行うことができました。
近い将来、こうしたデジタル作画ならではの技術を駆使したTVアニメシリーズも放映されることになるのでしょう。「効率化」だけではなく、アナログ作画では困難だった領域まで「表現の幅が広がる」という点も、デジタル作画で得られる大きなメリットだと思います。
このような “効率化の次” を見据えたソフトウェア選択が必要なのではないでしょうか? 最近、そんなことを良く考えるようになりました。
佐藤皇太郎(サトリデザイン)