第11回:熊谷拓登氏(叶音)のアニメ「履歴書」
私のアニメ業界への第一歩目は、(音楽が主ではありますが)映像ソフトメーカー avex(当時は avexディストリビューション)でした。そこでは営業として、全国各地のレンタルビデオ店へ映像ソフトを販売する仕事を担当しました。あの頃はまだ地域ごとに強いレンタルチェーン店があり、お店ごとに特色のある仕入れをしている所も多かったですね。映像が好きでお店をやっている店主の方がほとんどだったので、アニメだからと言って頭から話を聞かないということが無かったのには少々驚かされました。その一方で、映像にこだわりがある以上、当然ながら「観てから判断!」となるので、色々と中身について感想を言いつつ、仕入れるか仕入れないかを判断されることになります。営業的にはなかなか難しい面もありましたが、勉強になりました。
東北、北陸、九州と飛び回り営業していくうちに、アニメを作っている現場ってどうなんだろう?との疑問が日々大きくなってきました。そこで、思い切ってアニメ制作会社XEBECへ転職し、制作進行として「ロックマンEXEシリーズ」や「ゾイドジェネシス」を担当しました。ここではアニメ制作の基礎を学ばせて頂きました。通常は制作進行が立ち会うことはないのですが、担当した演出さんの意向もあり、アフレコやダビングに立ち会うことができました。とてもいい経験をさせてもらったと思っています。「アフレコには芝居が分かるカットを優先しなければならない」(止めのカットや1キャラのロングのカットは芝居とはあまり関係ないので、表情が変わるカットとか、会話をしているキャラ同士の距離感が分かるカットを優先してアフレコ用に用意すべき)とか、「ダビング時には、足の動きやエフェクト(効果音)など音に関わるカットが無いと必要な音を入れてもらえない」など多くのことを学びました。さらには、たとえば足音をつける際には、木の床なのか、土なのか、裸足なのか、靴なのかが分かる映像素材や指示を入れる必要がある(魔法などのエフェクトも同様)等々、立ち会ってみないと気が付かない発見ばかりでしたね。
・・・ほんと今思い返しても冷や汗が出てきますが、日々事件が起き、毎日が怒涛のように過ぎ去って行きました(苦笑)。
そんな怒涛の日々の中でもご縁があって、また転職することになりました。今度はテレビ東京メディアネットというテレビ東京の子会社です。ここではいわゆるアニメの「衣」ありの制作と呼ばれる「製作」の一員として勤務しました。放送局との調整や製作委員会の各社さんとの調整などが主な業務です。制作現場とは扱う情報の内容が違うものの、同じように人との繋がりが非常に重要な仕事です。現場の制作工程とは違ったレイヤーでの仕事を1から学ぶことができました。また、納品の責任を負う立場でもあったので、深夜からV編と呼ばれるフォーマット編集にも立ち合い、朝一でそのまま会社に持って帰るなんてこともざらにありました。書くと長くなるので書きませんが、深夜ものを中心にたくさんのアニメ作品を担当させて頂きました。
そして再びご縁があり、グロービジョンという老舗の音響制作会社のお世話になることに。ここでは基本的に音響制作及びそのサポートを担当しました。「音」という部分に焦点を当てていますが、これまでと同様に調整が主な仕事です。とは言え、ここでもやり取りする内容が違うので1から勉強の日々でした。中でも吹き替えの仕事は、これまで全く接点が無かったので、新鮮な発見の連続でした。アニメと違い実写の吹き替えでは、生身の役者に合わせて生っぽい(リアルな)演技を要求されるとか、オリジナル(原版)にSE(効果音)とBGM(劇伴)が入っているので、新規に制作する必要はなく、これらは録音調整作業のみで良いといったことなどです(関わったことがあると当たり前なことかもしれませんが…)。
そして最後に、音響制作会社 叶音を設立し、現在に至ります。今までお世話になった皆様の助けを借りつつ、これまでの経験をフルに活用し「音」と「製作」の両輪で歩んでおります。あと1年と迫った設立10年目を目指して、日々もがきながら引き続き進んでまいりたいと思います。
アニメ業界は広いようでとても狭い。そして過酷です。そんな中でもやって来られたのは出会った皆様とのご縁や助けがあったからだと思っております。
本当にありがとうございます。感謝!!
熊谷拓登(叶音)